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稲(米)の放射性セシウム汚染 Q & A [科学]

稲(米)の放射性セシウム汚染 Q & A

最近、放射能汚染に関する問い合わせが多く寄せられています。少しでもお役にたちたいと本ブログで過去3回投稿させていただきました。

1)放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs,90Sr汚染・・・・・・822日投稿

2)農作物のセシウム汚染は収束・・・・・・・1025

3)水田土壌の放射性セシウムの経年減少(福島原発事故バージョン)・・・1113

今回は稲()など植物の放射性セシウム汚染の疑問をQ&A方式で取り上げさせていただきました。また、放射能汚染関係の基礎用語の解説と放射性セシウムによる内部被爆を評価する“預託実効線量に”ついて分かりやすく記述させていただきました。

本ブログはこの4年間で総アクセス数が現在約21.5万あり、とくに、放射能汚染関係のアクセスが多くなっています。

放射線の種類

アルファ(α)線 本体はヘリウム(4He)の原子核。質量の大きい粒子のため、物質中でエネルギーを失い易いため透過力は小さい。空気や紙一枚で遮蔽可能。

 ベータ(β) 本体は天然では陰電子。エネルギーの弱い核種(3H14C)から強い核種(90Y)があるがアルミ板で遮蔽できる。 

ガンマ線 本体は電磁波。放出エネルギーの比較的弱い核種(131I137Cs)や強い核種(60Co)により透過力は異なるが、鉄・鉛板や鉛ブロックで遮蔽可能。

中性子線 本体は中性子で鉄や鉛では遮蔽出来ないが水、ホウ素、コンクリートのような質量の軽い物質で遮蔽効果が大きい。  

放射線用語

核種 陽子(p)と中性子(n)の数で決まる原子核の種類。

同位体 同じ元素で中性子の数が違うものを同位体(isotpope:アイソトープ)といいます。同位体は安定な核種と不安定な核種があり、安定な核種は放射能を持たず安定同位元素(stable isotope)といいます。不安定な核種は放射能を持ち、放射性崩壊して放射線を発しながら安定な核種に変化しますが、このような核種を放射性元素とか放射性同位元素、放射性同位体(radioisotope)あるいは放射性核種(radionuclide)といいます。 

セシウム(Cs 原子番号55)を例に説明します。セシウムには39種類もの同位体があり、同位体の数は元素の中でも最も多い部類に属します。そのうち、安定な同位元素は133Csです。39ある同位体のうち、同位体の最も軽い112Csと安定同位元素の133Cs、福島原発事故で放出された134Cs137Csおよび最も重い151Csを選び陽子、中性子の数および核の安定性示しました。

112Cs:陽子55、中性子57、放射性同位体。

133Cs:陽子55、中性子78、安定同位体(天然存在割合は100%です)。

134Cs:陽子55、中性子79、放射性同位体(福島原発事故で沢山放出された)。

137Cs:陽子55、中性子82、放射性同位体(福島原発事故で沢山放出された)。

151Cs:陽子55、中性子96、放射性同位体。

134Cs137Csはともにβ線とγ線を放出します。 

放射能の単位

ベクレル(Bq) 放射線を出す能力を表わす単位。1Bq1秒間に1個の原子核が崩壊すること(dpsとして表現、ddisintegrateで崩壊)。崩壊は放射線の放出を伴う。放射線測定器で測定する単位としてcpmカウント/ミニッツ)がよく用いられます。これは、例えば、10%の放射線計数効率の放射線測定器で白米を1分間測定して10 カウントあれば10cpmとなり、100dpmに相当します。これは、1秒に換算すれば1.66 dpsとなり1.66 Bqとなります。 

放射線の量に関する単位

吸収線量Gy(グレイ) 放射線のエネルギーが物質にどれだけ吸収されたかを表わす単位。1Gyは物質1kgあたり1ジュール(0.2389カロリー)のエネルギー吸収があるときの線量。 

線量当量・シーベルト(Sv):人が放射線を受けたときの影響の程度を表わす単位で、上述の吸収線量Gyに下記の※1線質係数を掛けたものです。吸収線量が同じ1 Gyであっても、中性子線で1 Gy被曝した場合とガンマ線で1 Gy被曝とでは人体が受ける影響(ダメージ)は前者の方が後者よりも格段大きいのです。

線量当量(Sv吸収線量×線質係数。

やや古い表現にラドやレムがあります。

1(ラド)=0.01(グレイ)  、1(レム)=0.01(シーベルト)。

線量当量じならば、どんな種類放射線であろうと、どのなエネルギーの放射線であろうと、人体ける放射線影響じであるとなされます。

1 線質係数は、α線:20、中性子線:10(エネルギーが10keV以上100keVまで)X,β線,γ線:1

ベクレル(Bq)をシーベルト(Sv)に換算する方法

内部被曝は、成人は50年、子供は70歳になるまでの被曝線量を合計した預託実行線量で表わします。預託実行線量の計算式は、預託実効線量 = 放射能濃度(Bq/kg) × 実効線量係数(Sv/Bq) × 摂取量(kg/) × 摂取日数()預託実効線量とは、半減期や代謝による排出速度などを考慮し、体内でどのように放射能が減少するかを計算して、成人では摂取後50年間の積分期間内の総計(子供では摂取年齢から70歳までの積分期間内の総計)を出しています。

白米を例に、預託実効線量の説明をします。白米には1347Cs 137Csが等量含まれていると仮定します。例えば、13Csで汚染された玄米500Bq/kgがあり、これは白米に換算すると約200 Bq/kgとなります。これに、13Csに対する実効線量係数(下記2)を掛けて計算します。200 Bq/kg の白米はSv/kgに換算すると(200Bq/kg×1.3×108 Sv/Bq)0.0026mSv/kgとなりますこの白米1日当り411g365日食べるとすれば、0.0026×0.411×365=0.39mSv(預託実効線量)となります。同様に、13Csに対する実効線量係数(下記2)を使用して計算します。200Bq/kg×1.9×108 Sv/Bq=0.0038mSv/kg0.0038×0.411×365=0.57mSv(預託実効線量)

放射性セシウム(134Cs 137Cs)の預託実行線量は合計して0.96 mSvとなります。

参考までに、天然に存在する40Kで汚染された白米(30Bq/kg)があるとすれば(30Bq/kg×0.62×108Sv/Bq)0.00019mSv/kgとなりますこの白米を一日411g食べれば、0.00019×0.411×365=0.028mSv(預託実効線量)となります。14Cも白米に数十Bq/kg含まれていますが、実効線量係数が低いので預託実効線量は40Kに比べ著しく小さな値となります。

137Csの例で、200Bqあたり0.0026mSvというのは、200Bq分の放射能を出す物を一度に食べた場合、その時から50年間にわたって体内で浴びる内部被曝の合計が0.0026mSvという意味です。

2実効線量係数(Sv/Bq) : 経口摂取の場合(年齢により異なる)

134Cs:1.9×10 、137Cs1.3×108 

 

    稲(米)の放射性セシウム汚染 Q & A 10

     今まで多くの方と接触して得た疑問点です。

Q1 大量の134Cs137Csが原発事故で雨と一緒に降下しました。このときの植物の汚染はどのようになりますか。

A 多量降下したときの汚染形態はほぼ100%が直接汚染といって、葉や茎などから放射性核種が取り込まれます。このような時は、根からの吸収は無視できる程度となります。この汚染形態は全ての植物に当てはまり、汚染が極めて強く現れます。

Q2 稲や麦の生育初~中期(出穂前)134Cs137Csが降下し(その後降下が認められない)葉や茎が汚染された場合、子実も汚染されますか。

A 米や麦などの子実は汚染されます。放射性セシウムは放射性ヨウ素や同ストロンチウムと異なり、一旦植物体内に取り込まれたら体内に残留して、新しく生長した器官に容易に移行し、さらには子実にまで到着します。詳しい内容は引用文献1)を参照下さい。下のオートラジオグラム(写真)は大豆の例ですが吸収された放射性セシウムは新芽に多く移行することがわかります。他の植物でも同じ傾向を示します。

大豆のオートラジオグラム.jpg

大豆のオートラジオグラム:短時間でCs-137は若い葉の多く移行するが、Sr-90は殆ど移動していない(写真をクリックして下さい)。右の写真で、点線部分はSr-90が認められず、X線フイルムに感光していない。大豆の標本には点線と同じ形の葉がある。

Q3 来年は、放射性セシウムはほとんど降下しないと推定されます。そのような時の汚染はどうなりますか。

A この場合、汚染の殆どは、土壌に蓄積した放射性セシウムを根で吸収した間接汚染に起因することになります。放射性セシウムの根からの吸収率は1~2%と少なく(引用文献1)、また、土壌から白米への放射性セシウムの移行係数は0.01~0.002程度と小さく(引用文献2)、現在土壌汚染の極めて高い圃場以外では検出限界以下(20Bq/kg)の米が生産される可能性が高いと思われます。一方、原発事故後間もない頃に生育していた果樹、茶樹、樹木などの永年作物では、一部なお体内に放射性セシウムが残留しており、来年以降多少の汚染源になる可能性があります。

Q4 土壌の放射性セシウム濃度から白米の放射性セシウム濃度を推定する方法があるそうですがどのように計算するのですか。

A 移行係数を使います。移行係数とは、白米の放射性セシウムを例にしますと、白米の放射性セシウム濃度÷土壌の放射性セシウム濃度です。移行係数を0.0026(文献2)として計算します。土壌の濃度を5000Bq/kgと仮定すれば5000×0.0026 =13Bq/kg、白米濃度は13Bq/kgと推定されます。但し、移行係数は土壌や施肥条件などにより1~2桁変動することがあるので注意が必要です。玄米は白米の約2.6倍の放射性セシウム濃度を示します。

Q5 水田土壌の放射性セシウムは、除染しない場合何年ぐらいで半減しますか。

A 今回の事故では、134Cs137Csがほぼ等量発生しています。水田の作土(土壌表層から鉛直に約15cm)の放射性セシウムは約5年で半減します。事故年から1年後0.82年後0.73年後0.624年後0.565年後0.5と推定されます。しかし土壌の種類等により2倍あるいは半分程度の変動はあります(詳しくは本ブログ1113日分参照下さい)。 

Q6 水稲の放射性セシウム吸収を抑制する最も簡単で実用的な方法はありますか。

A カリ肥料をきらさないこと、標準よりやや多目に施用することです。ただしやりすぎは塩害を起こす可能性が生じます。堆肥の多用も有効と思われます。

Q7 狭い区域内でも放射性セシウム含量の高いホットスポットがあるのはなぜですか。

A 大気中の放射性セシウムは主に雨とともに地上に降ってきます。土壌は放射性セシウムを容易に吸着し、その吸着力は強いため、無制限に濃縮するのです。したがって、雨が沢山集まる場所は汚染が高くなります。土壌表面に多く集積し、下層へ移動し難い性質を持っています。これは、放射性セシウムは土壌の粘土鉱物に固定され易いからです。

Q8 水稲が放射性セシウムを根から吸収した場合、水稲器官の分布割合はどのようになりますか。白米には多く移行しますか。

A 放射性セシウムは放射性ヨウ素・ストロンチウムに比べては白米に相対的に多く集積します。放射性セシウムはカリウムよりも白米に多く集積する結果を得ております(文献1)。下に分布図を示しました。

137Csの水稲体内分布.jpg

Q9 福島原発事故により、北関東から東北地方に多量の放射性セシウムが土壌に蓄積しています。この事故前の放射性セシウムの土壌と米の濃度はどのくらいでしたか。

A 水田土壌と白米の137Cs濃度の日本全国平均値は、土壌:8.4 Bq/kg(2000)、白米0.023 Bq/kg(2000)です。いかに今回の事故の影響が大きいかが良く分かると思います。

Q10 過去、米国、旧ソ連、フランス、英国、中国で大型核爆発実験が行われ、グローバルな放射能汚染をもたらしましたが、当時最も高い137Cs濃度はどの位でしたか。

A 福島原発事故以前で、過去最高の137Cs汚染が認められたのは1963年で、この年には最も多くの137Csが日本に降下しました。それらの値は全国平均で水田土壌 39 Bq/kg、白米 4.2 Bq/kgでした。Q9 Q10に関する詳しい内容は、本ブログで投稿した 1)放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs,90Sr汚染・・・・・・822日投稿分をご参照下さい。また、独立行政法人農業環境技術研究所のホームページに公開されています。

             引用文献

1) 津村昭人他:土壌及び土壌―植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究(学位論文)、農業技術研究所報告B3657-113(1984)。

2) 駒村美佐子・津村昭人他:誘導結合プラズマ質量分析法による土壌から白米への放射性核種の移行係数算定、RADIOISOTOPES431-81994)。

3) 駒村美佐子・津村昭人他:日本の水田における作土中の137sの滞留半減時間、RADIOISOTOPES48635-6441999)。

4) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国での90r137sによる白米の汚染―1959年以来37年間の長期観測とその解析―、RADIOISOTOPES5080-932001)。

5) 駒村美佐子・津村昭人他:国産小麦の90rおよび137C汚染に関する長期観測と解析―1959年以来チェルノブイリ事故を含む37年間―、RADIOISOTOPES51345-3632002)。

6) Komamura, M., Tsumura A. et al:Monitoring 90r and 137s in Rice, Wheat and Soil in Japan from 1959 to 2000, Miscellaneous Publication of National Institute for Agro-Environmental  Sciences, No.28,1-56(2005)  。 

7) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国の米、小麦および土壌による90r137s濃度の長期モニタリングと変動解析、農業環境技術研究所報告241-242006)。

 

引用文献1)は農業環境技術研究所ホームページ:原子力発電所事故等による土壌・農作物の放射能汚染に関する情報ポータルで全頁閲覧できます。

引用文献 7)は同上ホームページ:主用穀類および農耕地土壌の90r137sで全頁閲覧できます。


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