ウラシマソウの性転換の謎 [科学]
ウラシマソウの性転換の謎
ウラシマソウ : 学名 Arisaema urashima。サトイモ科テンナンショウ属。宿根性の多年草。雌雄異株。
地下に球茎を形成し、子球をつけて増える。葉は一枚のことが多く、大きな株では14枚程度の小葉を鳥足状(傘状)に着ける。実生のような小株では4枚ほどの小葉を着ける。茎先に花軸が多肉化して花がその表面に密生した肉穂花序(付属体と花から構成)を出す。この肉穂花序は仏炎苞(サトイモ科の大形の苞)に覆われている。肉穂花序の先端の付属体が細長い紐状に長く伸び途中から垂れ下がる(これを浦島太郎の釣糸に見立てた)。肉穂花序の多数の花には花弁は無く雄蕊と雌蕊で形成されている。
受粉はキノコなどに加害する極小のハエ(1mm~2mm位)などによる虫媒(花)で、雄株の仏炎苞の開口部から進入した虫は雄花群の花粉を身に付着し、仏炎苞の底にある隙間から脱出し別の雌花群に入り受粉させるが、この雌性の仏炎苞には雄性の仏炎苞のような脱出する隙間は無く、ここで死んでしまう。受粉した個体は、秋にはトウモロコシ状に赤く実る(有毒)。
ウラシマソウの性転換
ウェブサイトで有名なウイキペディアによると「テンナンショウ属の植物は性転換をすることが知られており、本種でも同様である。比較的小型の個体では雄性となり、仏炎苞内部の肉穂花序に雄花群を形成し、大型の個体では雌性となり、肉穂花序には雌花群を形成する性質がある。つまり、種子由来の若い個体や子球由来の小型の個体は雄性となり、より大型の個体は雌性に転換していくこととなる」と記されている。また、「日照量が不足する条件下では開花困難か雄性個体ばかりとなりやすく、逆に適度な日照量条件下では無性期、雄性期、雌性期のすべてが見られることとなる」と記述されている。これらの記述から、類推すれば雌性期の個体でも翌年の環境状況により雄性期になりうる。
この問題に関いて、舎人公園の野草園で生育しているウラシマソウ7個体の観察では、大きい個体グループ4本の大きさはほぼ同じで、環境条件は同じであるにも関わらず雄性、雌性の両個体が隣合せに確認された。4個体のうち3個体は雄性であった。残りの比較的小さい株もいずれも雄性であった。ほぼ同一大の2個体で、一方が雌性、他方が雄性と確認された事実から、性転換は個体の大小以外に発生してからの経過日数、微細な環境条件などが複雑に関与していることが推定される。
以下写真で説明いたします。クリックして拡大して見て下さい。
ウラシマソウの発芽の様子:付属体から「釣糸」が出てきました。
ウラシマソウの開花状態:7個体があります。
上の2個体はほぼ同じ大きさ:左が雌性、右が雄性。拡大して見て下さい。
左は雌性の雌花、右は雄性の雄花。拡大して見て下さい(雌蕊と雄蕊がよく見えます)。
同じ位の個体が4本ありました。
雄性の花序の構成。拡大して見て下さい。
雌性の花序の構成。拡大して見て下さい。苞は仏炎苞です。
マムシグサの例:左の茎(偽茎)の模様がマムシの斑点に似ている。右の実はトウモロコシ状に実っています(有毒)。
コンニャクの花:雌雄同株で、雄花の下に雌花(この写真では一部しか見えません)が位置します。
ソメイヨシノの原木 [科学]
ソメイヨシノ(染井吉野) : 学名: Cerasus
× yedoensis (Matsum.) A.V.Vassil. ‘Somei-yoshino’は日本原産種のエドヒガン系の桜とオオシマザクラの交配で生まれたと推定されている日本産の園芸品種であります。ソメイヨシノは接ぎ木で普及したためほぼ全てクローンです。森林総合研究所などによるDNAを用いた研究では、ソメイヨシノは単一のクローンである事を肯定しています。ソメイヨシノは自然交雑種なのか、人工交配種なのかの論争はありますが、現在では人工的な交配による品種改良で作られたとする説が最も有力視されています。染井村の造園師や植木職人により江戸時代末期から明治初期にかけて育成され、普及は現在も続いています。
それでは、接ぎ木により普及したとなるとその原木があるはずです。最近発表された新しい説によるとその原木が上野公園にあるとされています。この説はまだ仮説の段階ですが有望と考えられます。そこで、早速上野公園に出向いてその「原木」を見てきました。開花初期でしたが写真に写してきました。拡大して見て下さい。
上野公園小松宮親王像北側(写真右奥)の開花初期の「原木」
開花初期のソメイヨシノの「原木」
ソメイヨシノの「原木」の幹:樹齢約100年とも150年以上とも。正確な樹齢が下されていません。
椎茸の放射能は下げられるか [科学]
福島原発事故から間もなく3年になろうとしているのに、椎茸の放射性セシウム濃度は出荷基準の100Bq/kgを低下していない状態が続いています。水稲などの作物では、カリウム肥料の多用などで、低減効果が認められています。
これからのお話は老人の呟きとして聞き流して結構です。
植物の根は、ほとんどセシウムイオンとカリウムイオンを区別して吸収できません。ということは、カリウムを沢山与えたらセシウムの吸収が抑制されることになります。この原理は私たちが50年ほど以前に実証しています。
では、椎茸栽培に使用される原木にカリウムを多く含ませたらどうでしょう。果たして椎茸の放射性セシウムが減少するでしょうか?たとえば、原木をカリウムイオンを含む溶液に浸漬します。一方、天然の椎茸なら、カリウム肥料の施用が考えられます。茸と普通の植物で同じような効果が発現するか否かは実験してみないと分かりません。
椎茸栽培農家、試験場のみなさんで興味のある方が是非試して下さい。あまり、カリウム肥料の濃度が濃いと椎茸の生育に影響しそうなので、注意が必要でしょう。
美味しそうな椎茸
有機農法と放射能汚染の講演 [科学]
日本有機農業研究会主催で環境放射能汚染の講演会が下記要領で開催されます。
興味のある方は是非ご参加下さい(写真をクリックして拡大して見て下さい)。
舎人公園でメンデルのブドウが実る [科学]
舎人公園でメンデルのブドウが実りました。二年前に挿し木して三年目で結実しました。この、メンデルのブドウについての詳細は、本ブログで二回投稿しております。最初は、2010年11月15日(メンデルのブドウ)で挿し木の様子です。二回目は、2011年9月15日(メンデルのブドウが舎人公園に)、で苗を舎人公園に移植した移植式の記事です。三回目が今回の記事です。
果実は成熟しても直径8mm位で小さく、野生のブドウの感じです。種は一つの果実に2~3個あり、長経4mm程度でした。味は普通のブドウよりやや劣りました。
3年目にしては随分大きく育ちました。
結実の様子:6月から7月までの約2ヵ月間果実の大きさに変化がほとんど見られませんでした。これが野生ブドウの特徴でしょうか。
8月には黒っぽい赤紫に変化して熟してきました。
種も普通のブドウより小振りでした。
米の放射性Csは原発事故後2年目で減少 [科学]
福島の原発事故から一年を経過し、今年の稲作は事故後二回目の作付けとなりました。
今年栽培された水稲の米の放射性Cs汚染は、前年の汚染よりかなり緩和されると推定されます。その根拠となる試験結果を紹介させていただきました。ここで、注意していただきたいのは下記試験結果はポット試験で行ったもので、現地圃場で栽培する場合は下記の結果より弱く影響が出ると考えられます。
本ブログで、福島原発事故関連の放射能汚染記事を過去4回投稿させて頂きました。沢山のアクセス有難うございます。過去の投稿は以下のようになっています。
稲(米)の放射性セシウム汚染Q&A(2011年11月24日)。
水田土壌の放射性セシウムの経年減少(福島原発事故バージョン)(2011年11月13日)。
農作物のセシウム汚染は収束(2011年10月25日)。
放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs、90Sr汚染(2011年8月16日)。
図をクリックして見ると、鮮明になります。
玄米の137Cs含量は、放射能処理した一年目が4種類の土壌で最も高く、同じポットで同じ施肥条件で栽培した二年目で急減しています。二年目から同じ条件で栽培した三年目では減少する傾向は認められますが、それほど大きな減少は見られませんでした(甲府土壌では三年目の方がやや高くでました)。
この試験結果から、今年の玄米の放射性Cs汚染は、昨年の汚染よりかなり軽減されることが推定されます。しかし、来年は今年ほど汚染が軽減されないと考えられます。
二年目で、このように、玄米の汚染が軽減された理由は、土壌に吸着していた放射性Csが経時的に水稲に吸収されにく形態に変化したためといえます。
そのメカニズムの一つとして、土壌に含まれているバーミキュライトやイライトなどの結晶構造の中にCsイオンが取り込まれ、固定され水稲に吸収され難い形態に変化したことが挙げられます。
稲(米)の放射性セシウム汚染 Q & A [科学]
稲(米)の放射性セシウム汚染 Q & A
最近、放射能汚染に関する問い合わせが多く寄せられています。少しでもお役にたちたいと本ブログで過去3回投稿させていただきました。
1)放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs,90Sr汚染・・・・・・8月22日投稿
2)農作物のセシウム汚染は収束・・・・・・・10月25日
3)水田土壌の放射性セシウムの経年減少(福島原発事故バージョン)・・・11月13日
今回は稲(米)など植物の放射性セシウム汚染の疑問をQ&A方式で取り上げさせていただきました。また、放射能汚染関係の基礎用語の解説と放射性セシウムによる内部被爆を評価する“預託実効線量に”ついて分かりやすく記述させていただきました。
本ブログはこの4年間で総アクセス数が現在約21.5万あり、とくに、放射能汚染関係のアクセスが多くなっています。
放射線の種類
アルファ(α)線 : 本体はヘリウム(4He)の原子核。質量の大きい粒子のため、物質中でエネルギーを失い易いため透過力は小さい。空気や紙一枚で遮蔽可能。
ベータ(β)線: 本体は天然では陰電子。エネルギーの弱い核種(3Hや14C)から強い核種(90Y)があるがアルミ板で遮蔽できる。
ガンマ線 : 本体は電磁波。放出エネルギーの比較的弱い核種(131I、137Cs)や強い核種(60Co)により透過力は異なるが、鉄・鉛板や鉛ブロックで遮蔽可能。
中性子線 : 本体は中性子で鉄や鉛では遮蔽出来ないが水、ホウ素、コンクリートのような質量の軽い物質で遮蔽効果が大きい。
放射線用語
核種 : 陽子(p)と中性子(n)の数で決まる原子核の種類。
同位体 : 同じ元素で中性子の数が違うものを同位体(isotpope:アイソトープ)といいます。同位体は安定な核種と不安定な核種があり、安定な核種は放射能を持たず安定同位元素(stable isotope)といいます。不安定な核種は放射能を持ち、放射性崩壊して放射線を発しながら安定な核種に変化しますが、このような核種を放射性元素とか放射性同位元素、放射性同位体(radioisotope)あるいは放射性核種(radionuclide)といいます。
セシウム(Cs : 原子番号55)を例に説明します。セシウムには39種類もの同位体があり、同位体の数は元素の中でも最も多い部類に属します。そのうち、安定な同位元素は133Csです。39ある同位体のうち、同位体の最も軽い112Csと安定同位元素の133Cs、福島原発事故で放出された134Csと137Csおよび最も重い151Csを選び陽子、中性子の数および核の安定性示しました。
112Cs:陽子55、中性子57、放射性同位体。
133Cs:陽子55、中性子78、安定同位体(天然存在割合は100%です)。
134Cs:陽子55、中性子79、放射性同位体(福島原発事故で沢山放出された)。
137Cs:陽子55、中性子82、放射性同位体(福島原発事故で沢山放出された)。
151Cs:陽子55、中性子96、放射性同位体。
134Csと137Csはともにβ線とγ線を放出します。
放射能の単位
ベクレル(Bq) : 放射線を出す能力を表わす単位。1Bqは1秒間に1個の原子核が崩壊すること(dpsとして表現、dはdisintegrateで崩壊)。崩壊は放射線の放出を伴う。放射線測定器で測定する単位としてcpm(カウント/ミニッツ)がよく用いられます。これは、例えば、10%の放射線計数効率の放射線測定器で白米を1分間測定して10 カウントあれば10cpmとなり、100dpmに相当します。これは、1秒に換算すれば1.66 dpsとなり1.66 Bqとなります。
放射線の量に関する単位
吸収線量Gy(グレイ) : 放射線のエネルギーが物質にどれだけ吸収されたかを表わす単位。1Gyは物質1kgあたり1ジュール(0.2389カロリー)のエネルギー吸収があるときの線量。
線量当量・シーベルト(Sv):人が放射線を受けたときの影響の程度を表わす単位で、上述の吸収線量Gyに下記の※1線質係数を掛けたものです。吸収線量が同じ1 Gyであっても、中性子線で1 Gy被曝した場合とガンマ線で1 Gy被曝とでは人体が受ける影響(ダメージ)は前者の方が後者よりも格段大きいのです。
線量当量(Sv)=吸収線量×線質係数。
やや古い表現にラドやレムがあります。
1(ラド)=0.01(グレイ) 、1(レム)=0.01(シーベルト)。
線量当量の値が同じならば、どんな種類の放射線であろうと、どの様なエネルギーの放射線であろうと、人体の受ける放射線の影響は同じであると見なされます。
※1: 線質係数は、α線:20、中性子線:10(エネルギーが10keV以上100keVまで)、X線,β線,γ線:1。
ベクレル(Bq)をシーベルト(Sv)に換算する方法
内部被曝は、成人は50年、子供は70歳になるまでの被曝線量を合計した預託実行線量で表わします。預託実行線量の計算式は、預託実効線量 = 放射能濃度(Bq/kg) × 実効線量係数(Sv/Bq) × 摂取量(kg/日) × 摂取日数(日)。預託実効線量とは、半減期や代謝による排出速度などを考慮し、体内でどのように放射能が減少するかを計算して、成人では摂取後50年間の積分期間内の総計(子供では摂取年齢から70歳までの積分期間内の総計)を出しています。
白米を例に、預託実効線量の説明をします。白米には1347Csと 137Csが等量含まれていると仮定します。例えば、137Csで汚染された玄米500Bq/kgがあり、これは白米に換算すると約200 Bq/kgとなります。これに、137Csに対する実効線量係数(下記※2)を掛けて計算します。200 Bq/kg の白米はSv/kgに換算すると(200Bq/kg×1.3×10-8 Sv/Bq)0.0026mSv/kgとなります。この白米1日当り411gを365日食べるとすれば、0.0026×0.411×365=0.39mSv(預託実効線量)となります。同様に、134Csに対する実効線量係数(下記※2)を使用して計算します。200Bq/kg×1.9×10-8 Sv/Bq=0.0038mSv/kg。0.0038×0.411×365=0.57mSv(預託実効線量)。
放射性セシウム(134Csと 137Cs)の預託実行線量は合計して0.96 mSvとなります。
参考までに、天然に存在する40Kで汚染された白米(30Bq/kg)があるとすれば(30Bq/kg×0.62×10-8Sv/Bq)0.00019mSv/kgとなります。この白米を一日411g食べれば、0.00019×0.411×365=0.028mSv(預託実効線量)となります。14Cも白米に数十Bq/kg含まれていますが、実効線量係数が低いので預託実効線量は40Kに比べ著しく小さな値となります。
137Csの例で、200Bqあたり0.0026mSvというのは、200Bq分の放射能を出す物を一度に食べた場合、その時から50年間にわたって体内で浴びる内部被曝の合計が0.0026mSvという意味です。
※2実効線量係数(Sv/Bq) : 経口摂取の場合(年齢により異なる)、
134Cs:1.9×10-8 、137Cs:1.3×10-8 。
稲(米)の放射性セシウム汚染 Q & A 10
今まで多くの方と接触して得た疑問点です。
Q1 大量の134Cs+137Csが原発事故で雨と一緒に降下しました。このときの植物の汚染はどのようになりますか。
A 多量降下したときの汚染形態はほぼ100%が直接汚染といって、葉や茎などから放射性核種が取り込まれます。このような時は、根からの吸収は無視できる程度となります。この汚染形態は全ての植物に当てはまり、汚染が極めて強く現れます。
Q2 稲や麦の生育初~中期(出穂前)に134Cs+137Csが降下し(その後降下が認められない)葉や茎が汚染された場合、子実も汚染されますか。
A 米や麦などの子実は汚染されます。放射性セシウムは放射性ヨウ素や同ストロンチウムと異なり、一旦植物体内に取り込まれたら体内に残留して、新しく生長した器官に容易に移行し、さらには子実にまで到着します。詳しい内容は引用文献1)を参照下さい。下のオートラジオグラム(写真)は大豆の例ですが吸収された放射性セシウムは新芽に多く移行することがわかります。他の植物でも同じ傾向を示します。
大豆のオートラジオグラム:短時間でCs-137は若い葉の多く移行するが、Sr-90は殆ど移動していない(写真をクリックして下さい)。右の写真で、点線部分はSr-90が認められず、X線フイルムに感光していない。大豆の標本には点線と同じ形の葉がある。
Q3 来年は、放射性セシウムはほとんど降下しないと推定されます。そのような時の汚染はどうなりますか。
A この場合、汚染の殆どは、土壌に蓄積した放射性セシウムを根で吸収した間接汚染に起因することになります。放射性セシウムの根からの吸収率は1~2%と少なく(引用文献1)、また、土壌から白米への放射性セシウムの移行係数は0.01~0.002程度と小さく(引用文献2)、現在土壌汚染の極めて高い圃場以外では検出限界以下(20Bq/kg)の米が生産される可能性が高いと思われます。一方、原発事故後間もない頃に生育していた果樹、茶樹、樹木などの永年作物では、一部なお体内に放射性セシウムが残留しており、来年以降多少の汚染源になる可能性があります。
Q4 土壌の放射性セシウム濃度から白米の放射性セシウム濃度を推定する方法があるそうですがどのように計算するのですか。
A 移行係数を使います。移行係数とは、白米の放射性セシウムを例にしますと、白米の放射性セシウム濃度÷土壌の放射性セシウム濃度です。移行係数を0.0026(文献2)として計算します。土壌の濃度を5000Bq/kgと仮定すれば5000×0.0026 =13Bq/kg、白米濃度は13Bq/kgと推定されます。但し、移行係数は土壌や施肥条件などにより1~2桁変動することがあるので注意が必要です。玄米は白米の約2.6倍の放射性セシウム濃度を示します。
Q5 水田土壌の放射性セシウムは、除染しない場合何年ぐらいで半減しますか。
A 今回の事故では、134Csと137Csがほぼ等量発生しています。水田の作土(土壌表層から鉛直に約15cm深)の放射性セシウムは約5年で半減します。事故年から1年後0.8、2年後0.7、3年後0.62、4年後0.56、5年後0.5と推定されます。しかし土壌の種類等により2倍あるいは半分程度の変動はあります(詳しくは本ブログ11月13日分参照下さい)。
Q6 水稲の放射性セシウム吸収を抑制する最も簡単で実用的な方法はありますか。
A カリ肥料をきらさないこと、標準よりやや多目に施用することです。ただしやりすぎは塩害を起こす可能性が生じます。堆肥の多用も有効と思われます。
Q7 狭い区域内でも放射性セシウム含量の高いホットスポットがあるのはなぜですか。
A 大気中の放射性セシウムは主に雨とともに地上に降ってきます。土壌は放射性セシウムを容易に吸着し、その吸着力は強いため、無制限に濃縮するのです。したがって、雨が沢山集まる場所は汚染が高くなります。土壌表面に多く集積し、下層へ移動し難い性質を持っています。これは、放射性セシウムは土壌の粘土鉱物に固定され易いからです。
Q8 水稲が放射性セシウムを根から吸収した場合、水稲器官の分布割合はどのようになりますか。白米には多く移行しますか。
A 放射性セシウムは放射性ヨウ素・ストロンチウムに比べては白米に相対的に多く集積します。放射性セシウムはカリウムよりも白米に多く集積する結果を得ております(文献1)。下に分布図を示しました。
Q9 福島原発事故により、北関東から東北地方に多量の放射性セシウムが土壌に蓄積しています。この事故前の放射性セシウムの土壌と米の濃度はどのくらいでしたか。
A 水田土壌と白米の137Cs濃度の日本全国平均値は、土壌:8.4 Bq/kg(2000年)、白米0.023 Bq/kg(2000年)です。いかに今回の事故の影響が大きいかが良く分かると思います。
Q10 過去、米国、旧ソ連、フランス、英国、中国で大型核爆発実験が行われ、グローバルな放射能汚染をもたらしましたが、当時最も高い137Cs濃度はどの位でしたか。
A 福島原発事故以前で、過去最高の137Cs汚染が認められたのは1963年で、この年には最も多くの137Csが日本に降下しました。それらの値は全国平均で水田土壌 : 39 Bq/kg、白米 : 4.2 Bq/kgでした。Q9 とQ10に関する詳しい内容は、本ブログで投稿した 1)放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs,90Sr汚染・・・・・・8月22日投稿分をご参照下さい。また、独立行政法人農業環境技術研究所のホームページに公開されています。
引用文献
1) 津村昭人他:土壌及び土壌―植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究(学位論文)、農業技術研究所報告B36、57-113(1984)。
2) 駒村美佐子・津村昭人他:誘導結合プラズマ質量分析法による土壌から白米への放射性核種の移行係数算定、RADIOISOTOPES、43、1-8(1994)。
3) 駒村美佐子・津村昭人他:日本の水田における作土中の137Csの滞留半減時間、RADIOISOTOPES、48、635-644(1999)。
4) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国での90Srと137Csによる白米の汚染―1959年以来37年間の長期観測とその解析―、RADIOISOTOPES、50、80-93(2001)。
5) 駒村美佐子・津村昭人他:国産小麦の90Srおよび137C汚染に関する長期観測と解析―1959年以来チェルノブイリ事故を含む37年間―、RADIOISOTOPES、51、345-363(2002)。
6) Komamura, M., Tsumura A. et al:Monitoring 90Sr and 137Cs in Rice, Wheat and Soil in Japan from 1959 to 2000, Miscellaneous Publication of National Institute for Agro-Environmental Sciences, No.28,1-56(2005) 。
7) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国の米、小麦および土壌による90Srと137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析、農業環境技術研究所報告24、1-24(2006)。
引用文献1)は農業環境技術研究所ホームページ:原子力発電所事故等による土壌・農作物の放射能汚染に関する情報ポータルで全頁閲覧できます。
引用文献 7)は同上ホームページ:主用穀類および農耕地土壌の90Srと137Csで全頁閲覧できます。
水田土壌の放射性セシウムの経年減少(福島原発事故バージョン) [科学]
3月11日の福島原発事故により、水田土壌も汚染されました。セシウムで汚染された水田土壌の除染などに参考となるように、水田に存在する(作土:表層から約15㎝深)放射性セシウム(134+137Cs)の経年的な減少割合を試算しました。試算の条件として、1)134Csと137Csが等量放出された、2)放射性セシウムの年間溶脱量と水稲による持ち出し量は合計しても1%程度で、134Csの年間の物理的減衰に比べ無視できるレベルにある、3)137Csの作土中滞留半減時間は全国15都道府県平均で約16年である(核爆発実験由来137Csから算定、下記文献)とした。
その結果を下図に示しました。
これらの結果は、水田に蓄積した放射性セシウムの除染が行われなかった場合に適用されます。
今回の福島原発事故に適用される放射性セシウム(134+137Cs)の水田土壌からの減少(図:赤線)は対数目盛りでも曲線になり、最初は半減期の短い134Csの減衰の影響を強く受けた減少をします。その後は半減期の長い137Csの減少形態に従い直線的に減少していきます。134+137Csが水田作土から半分(0.5)に減少するのは約5年と試算されました。1年では0.8、2年0.7、3年0.62、4年0.56と算出されました。137Cs単独の減少 (図:緑線)は、5年で0.8、16年では半分になります(核爆発実験由来)。134Cs単独では(図:黒線)、上述のとおり水田からの放射性セシウムの溶脱や水稲による持ち出しが少ないため、134Csの物理的半減期とほぼ同じ約2年で半減します。
これらの結果は、平均的な値で、土壌、栽培条件などにより2倍あるいは半分程度の変動はあると考えられます。
参考文献
1)日本の水田における作土中の137Csの滞留半減時間、RADIOISOTOPES、48、635-644(1999)
2)わが国の米、小麦および土壌による90Srと137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析、農業環境技術研究所報告24、1-24(2006)
(津村昭人原図)
この図を使用される時は、出典を明記してください。
クリックして拡大するとはっきり見えます。
農作物のセシウム汚染は収束 [科学]
結論から申しますと2012年の農作物の放射性セシウム汚染は収束するでしょう。その理由は、今回のような原発事故時の作物の汚染形態はほぼ100%が葉や茎から取り込まれる直接汚染に起因するからです。事故炉から新たなフォールアウト〈放射性降下物〉が発生しなければ、来年は農作物の放射能汚染は収束すると考えられます。ただし、一部の汚染度の高い土壌での栽培、永年作物では暫定基準値には達しないものの、ある程度の放射性セシウムは検出される可能性があります。
その根拠を述べてみたいと思います。2011年3月11日の福島原発事故による炉心損傷と水素爆発が12日~15日頃まで続き、莫大な放射性物質(主に放射性ヨウ素と同セシウム)が大気中に放出されました。事故時および事故後に栽培されていた露地植物の汚染の殆どは、根からの吸収ではなく、大気中のフォールアウトが雨などにより直接葉や茎などに付着・吸着し体内に取り込まれた直接汚染に起因するのです。直接汚染はドラスチックに現れる性格を持つため、今回の農作物が暫定基準値を超過し社会問題化したのです。しかし、フォールアウトの降下が収束に向かった以降の栽培では暫定基準値を超える作物はあまりありませんでした。お茶や果物など永年作物は、すでに体内に取り込まれた放射性セシウムが、一部来年新芽に移行すると推定されるので、一年生の作物よりは収束に時間がかかると考えられます。
幸い、水稲はフォールアウトが収束に向かっていた時期に田植えが行われ、殆ど直接汚染の影響は避けられました。1986年のチェルノブイリ原発事故時(4月26日)では、わが国へのフォールアウトの多量降下が小麦の出穂期の5月に重なり(直接汚染)、玄麦の高い137Cs汚染が生じました。その濃度は1.2~16(平均6)Bq/Kgに達しており、この値は前年の132倍に相当します。しかし、翌年には0.042 Bq/Kgと平年レベルに低下し、経根吸収のウエイトの小さいことが理解できます。一方、チェルノブイリ原発事故年の米と土壌の137Cs汚染は平年とほぼ同レベルにありました(平均で白米0.056 Bq/Kg、土壌19.4 Bq/Kg)。これは、直接汚染を避けられたからです。因みに、この年の土壌から白米への移行係数 (0.056 Bq/Kg/土壌19.4 Bq/Kg)は0.0029となります。白米の移行係数は、本ブログで既に詳しく述べましたが、土壌、施肥条件により、一桁~二桁の開きが生じます。
放射性セシウムは、根のみならず、植物体の葉、葉鞘、穂などあらゆる器官で取り込まれ、一旦取り込まれると体内を移動し易い性質を持っています。特にカリウム含量の多い米には多く移動集積します。
過去のトレーサ実験、1963年頃の核爆発実験、チェルノブイリ原発事故および今回の福島原発事故に起因する農作物の放射能汚染を解析した結果、このような緊急時で多量のフォールアウトが降下するときでは、その汚染はほぼ100%が直接汚染に起因することになります。したがって、新たなフォールアウトがほとんど発生していない現在、来年の農作物の放射能汚染は収束に向かうことになるのです。土壌に放射性セシウムが残留していても根からの吸収は特殊な例(土壌・施肥条件)を除いて多くはないからです。
核爆発実験由来フォールアウトの降下が多量観察された時期と、フォールアウトの降下量が減少した時期別に直接汚染と間接汚染の割合を図示しました。フォールアウトの降下が極めて多いときの汚染形態は、ほぼ100%が直接汚染に起因し、間接汚染(経根吸収)による汚染割合は無視できる程度で、今回の福島原発事故からしばらくの期間がこれに当てはまります。
過去の研究結果から、来年度の農作物の暫定基準値(500Bq/Kg)を十分の一程度あるいはそれ以下にまで下げられるのではないかと考えます。
この記事に関連して、本ブログで取り上げました下記の記事もご参照下さい。記事:放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs、90Sr汚染(2011年8月22日投稿)
参考にした文献
1) 津村昭人他:土壌及び土壌―植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究(学位論文)、農業技術研究所報告B36、57-113(1984)
2) 駒村美佐子・津村昭人他:誘導結合プラズマ質量分析法による土壌から白米への放射性核種の移行係数算定、RADIOISOTOPES、43、1-8(1994)
3) 駒村美佐子・津村昭人他:日本の水田における作土中の137Csの滞留半減時間、RADIOISOTOPES、48、635-644(1999)
4) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国での90Srと137Csによる白米の汚染―1959年以来37年間の長期観測とその解析―、RADIOISOTOPES、50、80-93(2001)
5) 駒村美佐子・津村昭人他:国産小麦の90Srおよび137C汚染に関する長期観測と解析―1959年以来チェルノブイリ事故を含む37年間―、RADIOISOTOPES、51、345-363(2002)
6) Komamura, M., Tsumura A. et al:Monitoring 90Sr and 137Cs in Rice, Wheat and Soil in Japan from 1959 to 2000, Miscellaneous Publication of National Institute for Agro-Environmental Sciences, No.28,1-56(2005)
7) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国の米、小麦および土壌による90Srと137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析、農業環境技術研究所報告24、1-24(2006)
白米汚染の直接・間接汚染の割合:137Csの多量降下期である1959~1963年の汚染は、ほぼ直接汚染に起因する(クリックすると拡大されます)。
1959~1966年および1986年(チェルノブイリ事故年)の汚染はほぼ100%が直接汚染である。
メンデルのブドウが舎人公園に [科学]
メンデルのブドウが舎人公園に
すでに、本ブログで触れましたが(2010年11月15日)、遺伝学の基礎を築いたグレゴール・ヨハン・メンデル(1822―84)は、エンドウ豆を使ったメンデルの遺伝の法則のみならず、ブドウの品種改良にも取り組んでいます。そのブドウの枝が1914年にメンデルが働いていたチェコの修道院から当時の東京帝国大学付属植物園(現小石川植物園)に贈られ、現在その成木が同植物園で公開されています(その隣には、ニュートンのリンゴの木が大木となっています)。
このメンデルのブドウが足立区江北の船津家に導入され、永年にわたり栽培されてきました。事情により、このブドウが伐採されることになりました。貴重なこのブドウを江北村の歴史を伝える会が中心となって、移植と挿し木で保存することになりました。現在このブドウが、足立区都市農業公園と都立舎人公園で受け継がれています。今年植えられた舎人公園のメンデルのブドウは来年には実ることでしょう。
挿し木の様子:活着(発根 )率は20%と低かった。
植樹式:江北村の歴史を伝える会の花井さんと舎人公園
ボランティアのメンバー(場所は舎人公園ボランティア花壇)。
花壇内に二株移植しました。
植樹後4ヶ月の生長ぶり。棚いっぱいに広がった。
棚上隣の花はアメリカノウゼンカズラ。クリックするとよく見えます。
メンデルのブドウの説明の一部(法則)。
放射能汚染の基礎情報:米と土壌の137Cs、90Sr汚染 [科学]
放射能汚染*1の基礎情報:米と土壌の137Cs、90Sr汚染
*1最近、放射能汚染という表現は間違いで、放射性物質による汚染と表現するのが正しいとされています。放射能とは放射線を放出する能力のことで、この能力を放射性物質が持っており、放射性物質のその能力により放射線を放出するのです。すなわち、放射能とは放射性物質や放射線を含んだ言葉として使用されている一面があるのです。私はあえて、表現が簡潔に表わせ
る一部分について放射能の表現を使用させていただきました。
福島原発事故で今年産米の放射性セシウム(134・137Cs)汚染が懸念されています。
放射能汚染について、本ブログへの投稿を戸惑っていたのですが、過去の放射能汚染調査結果と研究成果(1959年から2000年)の概要をご紹介させて頂くことにしました。今回の原発事故対策に少しでもお役に立てばと思います。長年にわたる膨大な調査・研究内容の中から、簡潔にまとめてみました。内容は、福島原発事故発生以前の調査結果と研究成果のうち、米と水田土壌の放射性セシウム(137Cs)とストロンチウム(90Sr)汚染に焦点を絞りました。詳しい内容は下記引用文献をご参照下さい。小麦と畑土壌の汚染に関しては省略させていただきました(必要な方は文献5,6,7をご参照下さい)。記事の補足としてイラストの写真1、2、3を掲載しました。
1米と水田土壌の137Csと90Sr汚染(福島原発事故以前のバックグラウンド)
白米の放射能汚染レベル(全国14~15カ所圃場平均)は、度重なる大型核実験の影響で最高値を示した1963年で137Cs 4.2Bq/Kg (玄米11.5)、90Sr 0.27 Bq/Kg(玄米約3.6)でした。しかし、2000年では137Cs 0.023 Bq/Kg(玄米約0.039)、90Sr 0.0027 Bq/Kg(玄米0.013)と激減しております。現在(2011年)では2000年の値の約半分に減少しています。チェルノブイリ原発事故では日本の小麦の汚染が生じ、137Cs約8 Bq/Kg(1986年)と高い値が観測されましたが、ほぼ100%直接汚染(直接汚染の説明は下記参照)に起因していることが確認されています。しかし、米汚染への影響は認められませんでした。チェルノブイリ事故による土壌の137Csの上乗せは統計的には認められていません。 水田土壌の汚染レベル(全国14カ所圃場平均)は、白米同様に最高値が1963年に観測され、137Cs 39Bq/Kg、90Sr 14Bq/Kgでした。2000年では137Cs 8.4 Bq/Kg、90Sr 1.0 Bq/Kgとやはり米同様激減しております。2011年では2000年の約半分の値です。
2 土壌から米への137Csと90Srの移行係数
土壌から白米への移行係数*2(下記定義参照)を、 全国14~15カ所の圃場(核実験起源137Cs、90Sr)で検討した結果、平均で137Cs 0.0026、90Sr 0.0038となっています。しかし、移行係数は土壌の性質により異なり、両核種とも一桁以上の開きがあります。移行係数の玄米/白米比は平均で137Cs 2.6、90Sr 5.8ですので、これらの値から玄米への移行係数を推定できます。 これに対して、トレーサ実験で算出した移行係数は、核実験起源の移行係数より高い値が得られており、平均で137Cs 0.009、90Sr 0. 0065となりました。玄米では137Cs 0.028、90Sr 0.025となりました。トレーサ実験による移行係数の玄米/白米比は平均で137Cs約 3、90Sr 4と算出されました。
3 137Csと90Srの水田土壌の滞留半減時間
水田土壌(作土:表層から約15㎝深)に蓄積している137Csが半減する時間(滞留半減時間)は平均で約16年(試料数36)、 同 90Srは約9年と算定されました。 しかし、 土壌間の差異が大きく137Csでは最低9年、最高24年、90Srでも最低6年、最高12年となりました。
4 白米の137Csと90Sr汚染の直接・間接汚染の割合
作物の放射能汚染の形態は、雨などに伴い降下した放射性物質(フォールアウト:放射性降下物)が直接作物に吸着して汚染する直接汚染と土壌に蓄積された放射性物質が根から吸収される間接汚染に大別されます。両者の複合汚染もあります。大型核実験の多発時および今回の福島原発事故後間もない時期の汚染形態は、ほぼ100%が直接汚染と言えます。土壌からの吸収率が下記のように低いため、フォールアウトが多ければ多いほど直接汚染の影響が大きくなるのです。チェルノブイリ事故時の小麦の137Cs汚染はほぼ100%が直接汚染に起因しています。過去における白米の直接汚染と間接汚染の割合を写真3に示しました。フォールアウトの多かった1963年前後では、白米の137Cs汚染は大部分が直接汚染経路によって汚染されたことが読み取れます。それ以降は複合汚染が続き、1990年頃から2010年まではほぼ100%が間接汚染経路(経根吸収)のみの汚染ということになります。
CsはKと化学性質が似ており、両元素とも植物体内で移動し易い性質をもっています。水稲の出穂前に降下した137Csは、水稲体(葉身・葉鞘)に吸着して体内に長期間残留し、その後出穂して稔実した米にまで容易に移行するのです。137Csの移動し易い性質が米の直接汚染を高めているのです。これに対し体内の90Srは137Csに比べて移行しづらいのです。
5 水稲の137Csと90Srの吸収率
土壌から根による放射性物質の一年間の吸収量(吸収率)は137Csで0.1%以下、90Srで1 %以下と算定されました(トレーサ実験結果)。吸収率のことは写真1を参照下さい。
6 水稲体内の137Csの分布割合
水稲が根から吸収した場合の水稲体内の137Csの濃度割合は、玄米を100として比較すれば、白米32、糠711、籾殻174、稈193、上位葉身107、下位葉身 537、上位葉鞘 296、下位葉鞘 247となりました。同様に90Srでは玄米100、白米26、糠760、籾殻661、稈967、上位葉身3758、下位葉身6661、上位葉鞘 1267、下位葉鞘 6740となり、137Csに比べて籾殻や葉に多く集積しています。参考までに137Csと90Srの体内分布割合の写真2に示しました(いずれもトレーサ実験の結果です)。
7 137Csの土壌からの溶脱
土壌表面に吸着した137Csは、溶脱モデル実験の結果表層2㎝以内に90%以上残留することが認められました。この実験は大型カラムによる屋外でのトレーサ実験で、2~8月の7カ月間の溶脱実験結果です(この間1260mmの降水を記録しています)。福島原発事故起源の137Csでも土壌の表層に大部分残留していることが報告されています。無担体(キャリアフリー)の137Csは土壌中で特異吸着を示し、容易には溶け出さないのです。フォールアウト性の137Csもキャリアフリーに近く土壌と特異吸着が生じることが推定されます。水田での層位別調査でも作土に多く残留していることが知られています。 土壌による137Csと90Srの吸着・固定に関する詳しい知見は文献1をご参照下さい。
8 水稲の放射性セシウム(134・137Cs)吸収抑制方法
水稲の134・137Cs吸収抑制に最も簡単で実用的な技術の一つとして、加里肥料の施用限界程度の多施用と堆肥など有機物の多用でしょう。色々な植物利用による水田の放射性セシウム除去技術が試みられていますが、植物の放射性セシウムの吸収率が低いので相当の年数がかかると思います。
*2移行係数:米と土壌の放射能比:(米の放射性核種濃度)÷(土壌の放射性核種濃度)例えば、米1kgの放射性セシウム÷土壌1kgの放射性セシウム
(水稲とその培地である圃場とは常に対応している必要がある)
9 自然放射能(参考資料)
上記の人工放射性元素(核種)とは別に、もともと自然に存在する放射性元素が意外と高い濃度で存在しています(以下の単位は1㎏当りベクレル・Bq)。土壌には40Kが数百、ウラン・トリウム系列が各40Kの十分の一程度、14C、ルビジウム(87)が共に微量存在しています。 白米では40K 30、14C数十程度で、ウラン・トリウム系列およびルビジウムは微量です。
引用文献
1) 津村昭人他:土壌及び土壌―植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究(学位論文)、農業技術研究所報告B36、57-113(1984)
2) 駒村美佐子・津村昭人他:誘導結合プラズマ質量分析法による土壌から白米への放射性核種の移行係数算定、RADIOISOTOPES、43、1-8(1994)
3) 駒村美佐子・津村昭人他:日本の水田における作土中の137Csの滞留半減時間、RADIOISOTOPES、48、635-644(1999)
4) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国での90Srと137Csによる白米の汚染―1959年以来37年間の長期観測とその解析―、RADIOISOTOPES、50、80-93(2001)
5) 駒村美佐子・津村昭人他:国産小麦の90Srおよび137C汚染に関する長期観測と解析―1959年以来チェルノブイリ事故を含む37年間―、RADIOISOTOPES、51、345-363(2002)
6) Komamura, M., Tsumura A. et al:Monitoring 90Sr and 137Cs in Rice, Wheat and Soil in Japan from 1959 to 2000, Miscellaneous Publication of National Institute for Agro-Environmental Sciences, No.28,1-56(2005)
7) 駒村美佐子・津村昭人他:わが国の米、小麦および土壌による90Srと137Cs濃度の長期モニタリングと変動解析、農業環境技術研究所報告24、1-24(2006)
これらに関連した情報は独立行政法人農業環境技術研究所、日本土壌肥料学会の各ホームページでも紹介されています。
(津村原図 )
写真1 水稲による137Csと90Sr の吸収率、玄米移行率および
土壌から白米への移行係数(写真をクリックして見ると鮮明になります)
(津村原図 )
写真2 水稲体内の137Csと90Sr の分布割合(写真をクリックして見ると鮮明になります)
写真3 水稲の137Csと90Sr 汚染の直接・間接汚染の割合(文献4より)
(写真をクリックして見ると鮮明になります)
花の咲き分けと葉の斑入りのメカニズム [科学]
花の咲き分けと葉の斑入りのメカニズム
我が家の桃色の花が咲くサルスベリに、白色の花が咲きました。十年近く桃色の花が咲き続けていますが、今年初めて白花が混じっているのを見つけました(写真1)。突然変異ではないかと思いその原因調べてみました。
同じ枝や木・茎に赤や白などの花が一緒に咲くのはよく見かけます。 アサガオ、オシロイバナ、サツキ、ウメ、サクラなどたくさん見られます。サルスベリもそうでした。 このような現象を花の咲き分けと言われています。
咲き分けはどうしてできるのでしょうか? 難しい課題ですが参考になれば幸いです(各種遺伝用語の説明は下記をご参考下さい)。
これに関与しているのは、トランスポゾン(Transposon)の可能性が高いとされています。アサガオではトランスポゾンの関与が確認されています。聞きなれない言葉ですが、トランスポゾンとは、動く遺伝子(転移遺伝子)とも言われ、遺伝子に動く(移動する)遺伝子で、転移する特徴的な構造を持つDNA断片(塩基配列)とされています。染色体(遺伝子の集まり)の中で移動して正常な遺伝子に飛び込み、正常な遺伝子の働きを壊すのです。トランスポゾンはほとんどの生物に存在するのですが、普段は動かないのです。
生物の形や色などは、遺伝子の塩基配列によって決まります。正常な葉や花の形を決める遺伝子にトランスポゾンが関与すると(遺伝子変異)異常が発生するのです。突然変異の多くはトランスポゾンによって誘発されると考えられています。接木では、遺伝子の異なる細胞が接することになるのでトランスポゾンの発現のスイッチになるとも言われています。
これと似た現象で、植物の斑入りがあります。実に多くの植物でみられます。斑入りとして、メンデルの法則の劣性遺伝などによる斑入り、細胞質遺伝による斑入り、キメラ(接木などで生じる異なった遺伝子を持つ細胞が混在)による斑入り、ウイルスによる斑入りなどが挙げられています。しかし、斑入り研究者では、その理由は十分に解明されていないのが現状のようで、トランスポゾン、突然変異(遺伝子の働きの違い)が関与していることや植物が病気にかかり、その症状が斑入りとして発現することが解明されつつあります。
用語解説 : ゲノム、染色体、DNA(デオキシリボ核酸)、遺伝子。
遺伝子とは、遺伝情報の最小単位(概念)。二本の螺旋状に絡まった形をした“ひも”(DNA)の上に、髪の毛を黒くするといった情報が暗号のように塩基:A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の文字(下記説明)で書かれていて、そうした遺伝情報部分を遺伝子と言っています。簡単に表現するとDNAの塩基配列による「情報」のことになります。
遺伝子は細胞核内の染色体にDNAとして蓄えられています。遺伝子とDNAは同じではありません。DNAは二重の螺旋構造で、そこに生命の設計情報が鎖状に繋がっています。
染色体とは細胞核が分裂するとき見えてくる糸状のもので、DNAなどを主成分とします(物質)。ご存知のように、細胞の核の中には染色体があります。染色体の中はDNA(二重螺旋構造)の鎖が整然と折り重なった状態で存在しています。つまり、染色体を作っている物質がDNAなのです。一本の染色体のDNAを真っ直ぐに伸ばすと、ヒトの場合(染色体は23組46本)、一番長い第一染色体で7.5㎝、一番短い第22染色体は1.4㎝ほどの長さで、一つの細胞の中だけでも全てつなぐと2mにもなります。ヒトの細胞を60兆個とすれば、ヒト一人分のDNAを全てつなぐと、その長さは約1200億kmにもなります。
DNAとは遺伝情報が書き込まれた二重螺旋構造物質(物質)。デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)といわれる物質で、遺伝情報が書き込まれており、生物の中ではデオキシリボース(五炭糖)とリン酸と4種類の塩基(アデニン(A)グアニン(G)シトシン(C)チミン(T)から構成されている核酸です。
ゲノムとは遺伝子(gene)と染色体(Chromosome)からできた言葉で、遺伝子の総体、つまり、生物が持つその生物に必要な全ての遺伝情報のことをいいます(概念)。一言でいえば、生物に必要な染色体のセットということになります。ヒトを作るには眼を作る遺伝子、足を作る遺伝子、脳を作る遺伝子など膨大な数の遺伝子が必要になります。そうしたヒトを作るための遺伝情報すべてを合わせたものをヒトゲノムといいます(ヒトゲノムには、23種類の染色体があります)。「ゲノム」という名前の物質が体の中にあるわけではなく概念です。ゲノムは染色体、DNA(デオキシリボ核酸)、遺伝子の中で最も大きい単位です。
アデニン(A) チミン(T) グアニン(G) シトシン(C)
DNAの塩基
写真1 サルスベリの咲き分け:白花が一輪
サツキとオシロイバナの咲き分け
アオキと フィカス・プミラの斑入り
メンデルのブドウ [科学]
遺伝学の基礎を築いたグレゴール・ヨハン・メンデル(1822―84)は、エンドウ豆の実験が有名ですが、ブドウの品種改良にも取り組んでいます。そのブドウの枝が1914年にメンデルが働いていたチェコの修道院から当時の東京帝国大学付属植物園に贈られ、現在その成木が同植物園で公開されています(その隣にはニュートンのリンゴの木も公開されています)。
このメンデルのブドウが足立区江北の船津家に導入され、永年にわたり育成されてきました。ところが、事情により、このブドウの伐採計画が持ち上がってきました。この貴重なブドウを保存しようと江北村の歴史を伝える会が中心となって、移植、挿し木をすることになりました。移植は足立区役所の方が同区の都市農業公園に、挿し木は江北村の歴史を伝える会の木村繁先生の指示により、同区役所、同会の花井氏および私が担当することになりました。ブドウの挿し木は、秋に挿し穂用の種枝を保存し、春挿すのが一般的ですが、伐採時期が8月であったため、果たしてこの時期の挿し木が成功するか否か不安がありました。しかし、幸いにも3本から新芽がでてきました(発芽・活着率は約10%)。来春には、このメンデルのブドウを江北村の歴史を伝える会の方と相談して適当な公園などに移植しようと考えております。
このメンデルのブドウが、メンデルの “優性遺伝の法則” や、交配された第二世代同士の交配では異なる性質が3:1の割合で現れるという “分離の法則” を理解する足がかりになればと考えています。
船津家の移植前のメンデルのブドウ。
メンデルのブドウ:ヤマブドウ様で味はまずい(着果はいろいろ)。
足立区都市農業公園に移植した株。
我が家で挿し木で育てている苗。
超ミクロの世界を覗く:ナノグラム(ng)とピコグラム(pg) [科学]
今回は、志向を変えて、以前分析した河川水と雨水のレアメタルやレアアース
のミクロの世界を紹介させていただくことにしました。最近、IT技術の進展に伴い、ナノテクノロジーといった熟語が登場してきました。
ラテン語でNano(ナノ)は小人を、Pico(ピコ)は尖った先をそれぞれ意味し、ともに
小さい代名詞です。これらが長さや重さの単位に使用され、ナノは10億分の1
(19-9)を、ピコは1兆分の1(10-12)をそれぞれ表わす単位の接頭語です。例え
ば、1ナノメートルは10億分の1メートル、1ナノグラムは10億分の1グラムです。
おなじみの単位ppm(parts per million)は百万分の幾つです。その千分の1の
単位がppb(parts per billion)で10億分の1、さらにその千分の1がppt(parts per
trillion)で1兆分の1、さらにその千分の1がppq(parts per trillion)で千兆分の1
と気が遠くなるような超ミクロな単位が存在します。例えば、1ppm(水溶液)は1ℓの水に1mgの物質(Na, Feなど)が (1mg/ℓ)、
1ppb は同0.001mg(1µg/ℓ))の物質が、1pptは同0.000001mg(1ng/ℓ)の物質
が、1ppqは同0.000000001mg(1pg/ℓ)の物質がそれぞれ解けている状態です。
g(グラム)を千分の1ずつ小さくした単位は、それぞれmg(ミリグラム )、 µg (マイク
ログラム )、 ng(ナノグラム) 、pg(ピコグラム ) です。このようなpptや ppqレベルの極微量元素の測定を可能にしたのが高分解能
ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)の開発でしょう。幸運にも、つくばの
農業環境技術研究所に超高価な世界第一号機、“高分解能ICP-MS”(英国製)が
水質動態研究室(山崎慎一室長)に1988年導入されたのです。
この器械の導入は全国の注目を集め、大学、官民の研究者による利用が盛んにお
こなわれ、今まで困難であった分析を可能にしたのです。ハイテク関係では超高純
度試薬、超純水などの不純物分析が、生物、環境分野では河川水、雨水、土壌、生物
体などのレアメタル(希少金属)やレアアース(希土類元素)の分析が行われたので
す。また、約4000年前の南極の氷のレアメタルの分析や環境放射能の測定などにも
広く利用されました。
レアメタル(希少金属):地球上での存在量が極めて少ない、存在量は少なくないが、これら
の資源が少なく、また、精錬が極めて困難な元素で52元素(レアメタルハンドブックによる)
がこれに属し、わが国では36元素が定義されています。
レアアース:レアメタルの内で、スカンジウムとイットリウムを含む周期律表のランタニド元素
(ランタンからルテチウムまで)。
導入された世界最強超微量元素分析装置
出典:プラズマイオン源質量分析
日本分光学会測定法シリーズ28
5章高分解能ICP質量分析:山崎慎一・津村昭人。
ぶんせき(日本分析化学会、1992)に紹介されました。
高分解能ICP-質量分析装置で河川水・雨水の超微量元素の分析を
行いました。
全国82の一級河川82箇所から河川水を採取しました。
大変でした(多くの方のご協力を得ました)。
濃度レベルはppt~ppqが多い。縦のジグザグ線は平均値。
ランタノイド以外のレアメタルを除く。
わが国の雨のレアメタル・レアアース濃度レベル。図が小さく読みずらい
ので申し訳ありません。